平成19年度仙台市小学校長会 生徒指導研修会講演要旨
演題 「学校と警察の連携について」
講師 仙台市教育局教育相談課 主任指導主事 手塚 健太 氏
1 はじめに
職員が教育委員会から警察に異動した例はめずらしく,政令市では仙台市が全国で初めてです。警察から委員会へ入るケースはままありますが,逆は非常に難しいと思います。警察に入って楽しいことや苦しいことがありましたが,子供たち,学校現場にこの経験を還元しなければならないと思っています。
いじめ0キャンペーンを始めたねらいは,仙台市からいじめを無くしたいという思いからです。涙,涙でいじめのことを話している保護者の方の姿を見ると,いじめを無くさなければならいという思いにかられました。そのために,現在寸劇を実施しています。いろいろな苦労もあったのですが,庁内では寸劇は今後も続けなくてはならないという声をいただいています。
2 教育課題研究会発表内容について
なぜ県警と連携しているのかということを含めて,昨年教育課題研究発表会で発表した内容を三段階に分けて,お話を進めてまいります。
私が県警に入る際の河北新報に「県警との人事交流,専門知識で子供を守れ」という記事が載っていました。それを実現したのが,当時の阿部芳吉教育長さん(現宮城教育大学副学長)でした。
だいぶ前から中学校の現場では,県警と関わりがありました。ですが,私は併任辞令ということで,仙台市に籍を残した形で交流を実現したということになります。
「児童生徒の健全育成に向けた学校等と警察との連携の強化について」の文部科学省からの通知が平成9年にきています。昭和38年の10月10日付け文書「青少年非行防止に関する学校と警察の連絡の強化について」をふまえて,今回改めて警察庁と協議を行ったとあり,34年ぶりに通知がきたことになります。実は,非行上昇期の昭和38年に,現在もある学警連が生まれたのでしたが,それ以降も学校では,警察との積極的な関わりを避けていました。平成9年までの文部省の通知文を見ても,「警察との」という言葉はあまりありません。「関係機関との」とか,児童相談所等の関係機関ということになっていました。
次に,仙台市の状況についてお話をします。昭和55年頃から校内暴力が発生し,ものすごく荒れ始めます。私も桃生郡雄勝町(現石巻市)から仙台市に帰って来た当時は,大変でした。それでも,生徒指導主事会が誕生し,警察との連携が始まりました。昭和60年に校内暴力事件で生徒が逮捕され,61年には宮城野区内で母親を死亡させた中学生が出るなど,警察の力を借りなければ解決できない状況になります。もう学校の対応だけでは無理だったのです。平成元年には児童相談所や青少年指導センターに教員が行っています。平成12年には教育相談課が誕生し,16年から県警との人事交流が始まります。その目的は,非行や犯罪被害から児童生徒を守り,お互いの専門性を役立てることによって連携を強化することにあります。
ここで,交流人事で市教委に派遣された警察官の感想を紹介します。
一つ目は,学校訪問を通して感じたことです。「小学校の教室の中に入らない児童を初めてみました。驚きました。」授業を抜け出してしまう子供たちの存在を,一般市民の方が見たなら驚きになります。指導困難状態になっている学級を見に行きますと「なんで決まりを守らないのですか。守ればいいでしょう。守らせればいいでしょう。」ということになります。今,中学校では,学年崩壊が起きています。どうして怒られているかも分からない状態の子供たちすらいます。これは小学校のルールと中学校のルールが一致していないからです。中学校で怒られた時,その理由すら分からない子供が現れるケースになってしまいます。
二つ目は突発事案発生時の対応の話です。私は少年課におりましたが,1つの事案に対し,複数の職員で精査し,マスコミ等への対応も含めて,管理職が分担し対応します。
今年,ある中学校で事件が起こり,私がテレビに映るようなことがありましたが,実は映らざるを得なかったのです。それは管理職の先生が学校では校長先生と教頭先生しかいないという理由からです。校長先生は判断者であり,教頭先生は実際の学校の窓口になるので,保護者の方や教員からの電話を受けていました。さて,マスコミの方には誰が対応しますか。もういないのです。そこで私が対応したのでした。
三つ目は小中学校との連携についてお話します。私は学校に直接関わる仕事として非行防止教室を行っていました。ある中学校の例ですが,ルールを守るというテーマで行いました。2回目は,私が司会をしましたが,学校の担任,少年相談指導官,警官とのパネルディスカンションを行い,非行防止を訴えました。他に,小学校では,約束を守るというテーマで道徳の授業をやったり,総合学習で約10時間位取り組んでいただいたりしました。
3 警察に派遣されて
県警にいって,はじめは寂しかったことを覚えています。教育委員会から行く時に,「手塚,絶対迷惑をかけるな。」「失礼なことをするんじゃないぞ。」と言われました。県警の皆さんは笑顔で迎えて下さいました。皆さん,本当に優しい方々ばかりでした。今日一日位はフリーでいて下さい,ここに座っていて下さいと言われましたので,半日位はじっと座っていましたが,トイレに行く時でさえ行っていいものかどうかを考えました。粗相があってはいけない。そこまで気をつかいました。1年経つとだんだん慣れてきて,2年目には,新しく入って来た同僚に,こうですよと教えてあげる位になっていました。友達も間違いなく増えました。連携の根っこは,友達ですね。私にはそうした方が警察に沢山できました。ありがたいことです。
(1)組織について
県警少年課に勤務したのですが,少年非行全般について,係を分担して対応しています。その中で,私がいた少年補導係は,触法少年等の面倒をみる所になります。一般の一線署に対して県警少年課があり,学校現場から見ると,私たち教育相談課のようなところと言えるでしょうか。
各警察署の生活安全課の係には,生活安全・相談係,県民,市民の方が生活上の安全について不安がある場合,ここに来ていただければ,必ず相談に応じてくれます。また,相談係は低年齢の子供たちの相談も担当します。少年係は少年犯罪に対応しています。警察は夜の10,時,11時は当たり前で取り組んでいます。警察は大変忙しいという点をご理解願いたいと思います。
事案が一つあると,間違いがないように,忙しい中でも,何度もチェックを行う厳しさが警察にあります。
(2)実際に勤務して
実際に勤務して見えてきたこともあります。経験や風土の違いもそうなのですが,学校と比較して言えることは,本当にハードワークだということです。
1週間に1回程度は泊まりがあります。警察の方は,午前8時半から働き始め,当直をして午前8時半まで働いて,その後夕方の5時まで働きます。どうしたらこんな事ができるのだろうかという思いです。私は特別にいった人間ですが,警察の方は皆さん苦労しています。2年間いましたが,警察の方の宣伝マンにならなければならないと思いました。警察の方は全てのことを身内で行っていますから,きちんとやったから仕事がうまくいったなどとは言えません。やって当たり前です。そういうことに徹しているとプロになるのだろうなと思いました。警察の方は,皆さん,ねばり強い,我慢強い,誠実な方なのです。このあたりを,これからも宣伝し,先生方にも,必要な部分は見習っていただければと思っています。
4 警察に勤務して見えたこと
(1)風土の違い
レジメにもありますが,風土は全く違います。あちらは警察法です。根拠法令も違います。学校は教育基本法ですし,児童福祉法が基になる児童相談所とも異なります。ただ,罰することを主な仕事として進めているのに間違いありません。少年法が改正されて,14歳未満の少年につき少年院送致を可能とするとあります。これは,概ね12歳以上であるということです。12歳というとすれすれですが,小学生も関わります。そういう社会になってきたということです。小学校は,子供たちの幼さから犯罪ではないように見受けられます。もともと,14歳からでないと犯罪少年とは呼ばれていません。14歳未満の子供は触法少年と言われます。しかし,実際の事件,事故を見ますと,12歳以上の子供たちが入ってきているということを校長先生方にも認識していただかないと,今後の対応がものすごく難しくなります。
(2)先生方の特徴
これまでの経験を踏まえて,先生方の特徴についてお話しします。
小学校の先生は一般的に柔和な顔をされていますが,中学校の先生の方はどちらかというと顔つきは険しいような気がします。特に小学校の先生方は子供を素直に育てたい,子供の全てを受容して,表情から声まで子供に合わせて優しくなっていく,ものすごく大切なことです。だからこそ教員です。しかし,放課後来たモンスターペアレンツに優しくしていて良いのでしょうか。どこまでも要求がきました。はい,わかりましたと言って良いのでしょうか。これが,私の感じた小学校の先生の優しさの部分です。
次に教えるのが得意ということを考えてみます。警察では捜査上のことは教えません。絶対に漏洩することはありません。教員は教えることがものすごく得意です。お節介という言葉さえ付くこともあります。これがトラブルになることがあります。例えば,保護者の方から,「子供が私のいうことを全然聞かないんです,相談に乗って下さい」とお願いされるとすぐ教えてしまいます。極端な話ですが,後になって「先生の言った通りにしたのに直らない」と責任を転嫁されることにもなりかねません。言った先生の責任が問われることになります。私が保護者から「子育てで悩んでいるのですがどうしたらいいでしょうか。」と尋ねられた際には,「お母さん自身はどうお考えになっていますか。そのことからお話し下さい。」と私は言うようにし,親に責任があることを理解させた上で,アドバイスをするようにしています。
(3)上意下達と自己決定
危機管理上,校長先生方の立場を難しくしている場合もあります。警察は上意下達です。どんなことでも報告され,その上で課長の指示で職員は動きます。課長の指示で仕事を進めているわけですから,正しく報告して,問題を解決していきます。しかし,学校では,例えば,私が担任をしていて,3時間目に山本君にイオン記号を質問してみたいと思ったとします。そのことを実現するために,「校長先生,3時間目にイオンのことについて,山本君にあててよろしいでしょうか。」と伺いをたてることは現実に無理ですね。
ですから,ある面,学校は,ものすごく自由度が高いのです。けれども,保護者の方とトラブルになりそうな事については,きちんと報告しなさいという点を徹底することはできます。教科,学級経営といった面では,ある程度自由度が高くても良いのでしょうが,保護者等が訴えてきている問題点について,今からの学校は上意下達で取り組んでいかないとものすごく大変だと思います。
ですから,正しい報告をしていただくことがものすごく大切になります。それで,校長先生が「大丈夫でしょう。」とおさまるのでしたら問題はありません。ところが,学校の先生方は自己決定が得意です。私たちの方に持ってくるトラブルになるケースでは,担任の先生が自己決定していく,保護者の方に対しても担任として関わっていく時に自分で話をして,それでいいと担任の先生のところでおさめてしまうパターンが多くあります。それが後でくすぶってひどくなることがあります。心配な先生には,常に声がけして状況を聞くことが必要になります。ある意味,警察では,お互いの信頼関係を作るために常に確認し合っています。ですから,そういうことも実は必要になります。
先生方の特徴でご注意頂きたいのは,学校生活では子どもとの生活の中で全受容して何でも受けとめようとすることが多く,断固拒否する場面はほとんどありません。しかしながら,学校で保護者からの不当要求が入った際は,経験がなくても断固として拒否する必要性があるのです。その辺を考えていただいて進める必要があります。実際に教員や子供の場合で問題になるケースでは,確認しながら進めることが必要な時代になってきているのです。ですから,上意下達というと本来は使うべき言葉では無いのかもしれませんが,指示命令系統をしっかり行っていく必要があります。学校では校長先生が危機管理体制のトップになります。危機管理状態が子供に発生した場合は,トップは判断者になります。校長先生が自ら現場に直行してそれを職員室に報告したとすると誰が判断するのですかという話にもなります。校長先生が判断者で客観的に判断するためには,教頭先生が情報を集約した上で,その情報を確認する必要があるのではないでしょうか。
(4)マスコミ対応
一番大切なことは,「教育相談課へ電話してください」ということです。教育委員会で記者会見をするわけは,学校に負担をかけたくないということです。学校は教育の場なので,経験のないことが当たり前なわけです。その経験のない人が,自分だけで解決をしようとすると「井の中の蛙」的になってしまいます。事件の解決に向けて,分かっていることを全部教育委員会に報告いただいて,間違ったところがあればきちんと謝る,隠すことはありません。しかし,必要のないことまで話す必要はありません。
学校の先生方は,すぐに保護者のことを考えて答えようとしますが,見ているのは保護者だけではありません。地域の方や市民の方はどう思うか,どのように報道されるかということまでを考えていただきたいと思います。そこまで考えて対応しないと,時には自分たちの身を守るような行動だと言われてしまって,リスクを負うことになると思います。ですから,そのような時には,これまで話したような社会的な視点を持つことが必要だと思います。
事故報告書ですが,結論として事故の概要を先に書くと分かりやすくなります。途中経過を先に書くと,内容が分かりにくい報告書になります。担任の先生の想いなどが入っていると,読みにくい報告書になります。事実と,時間経過が適切に書かれていれば結構です。なんといっても適切な事実確認や状況把握した上で,事故の概要が確定していることが大切です。小学校の場合は,どうしても傷害事故が多くなります。例えば,ぶつかってこられて転んだ,そのときは一応の解決をみたが,再燃するパターンというのが出ています。その時に,裏付けをきちんととっておくことが求められます。ぶつかって転んだ場面を,そばにいた誰か見ていなかったか,聞いておくことも必要な時代になってきています。
5 児童生徒の問題にどう対応するか
校長先生方だけは,中学校から降りてきたような目で見ていただく必要があります。12歳位になると,思春期に入り,自我の芽生えのある頃です。幼稚園,小学校低学年の時から見ている小学校の先生にとって,幼さが残っている小学生がやったこと,これは犯罪になるのかなあなどと悩まれる部分もあると思います。しかし,中学校の目で見ると,それは間違いなく犯罪に当たるということがあります。その境界は,何歳なのか?元々の法律では14歳です。
私たちは教師ですから,当然,生徒指導主任なり,教務主任なりが適切に事実を把握し,校長・教頭にそれを報告し,加害者とその保護者から今後起こさないことの確約をとったりするわけです。それで,その後何もなければいいのです。ただ,法に触れるようなこと,犯罪少年となっていくような時,どうするかということなのです。ケースバイケースとしか言いようがありません。その後の処遇という問題もあります。14歳未満だと,警察に被害届を出しても犯罪とは認められないので,児童福祉法により,児童相談所に送致されます。
6 クレーマーついて
一つ必要なことは,要求内容の把握ということです。辛くても,曖昧な話がきて,高圧的に話している時でも確認をしなくてはならない時があります。10のうち9を向こうがしゃべり,こっちがたった1だけだったりすると,次第に向こうの力に押されてしまうようになります。そういうふうにならないために,複数で対応することが基本です。
学校の場合ですと,教員にどう見ても非がある場合は,きちんと謝り,相談課へ連絡や相談をしていただくことが必要です。きちんと記録をとっておくことも必要です。最近多いのは,念書の作成要求という問題です。保護者の方は,自分たちが納得しない事案があるから念書を書けと言ってきます。事案が納得できれば,それで終わります。こういう時は,代案を出さなければなりません。いじめがあった場合,「いじめをなくすように書け。」と言われます。「職員を常時つけるようにして最大の努力をします。それ以上はできません。」ということをきちんと話す必要があります。結局は,事実の把握ということになります。事故報告書がきちんと整理されている場合は,たいてい落ち着きます。ところが,きちんと整理されていないと,難しいところが出てくるということをご承知おき下さい。
7 おわりに
子どもたちに対して,今は1回指導しただけで,事案に関する指導が終わったなんていうことは考えられません。1回指導して済むのであれば,苦労はしないわけです。いじめなどへの対応は,1回指導して,その1週間後くらいにまた被害者加害者に話を聞いて,そしてまた指導して・・。子どもの様子を見て,家庭に返して,・・ 粘り強く対応するしかありません。それが子供たちのためであると考えています。
校長先生方,お忙しいところではございましょうが,粘り強く対応していただきたいと思います。ご静聴ありがとうございました。
講師 手塚 健太 氏 沼田昭穂 会長あいさつ 寺野明部長による講師紹介