保存処理

 遺跡を発掘されたままの状態で公開展示するため、遺跡を大地から切り離さず、床のない特殊な建築土木工法と、最先端の科学技術を応用した保存処理方法を採用しています。

建築土木工法

 建物は遺跡の保存のため、工事による影響を極力おさえただけでなく、保存と公開のために様々な工夫をしています。そのひとつとして、地下水の侵入を防ぐ目的で、厚さ80cmの外壁を地下20mの深さまで築いています。

保存処理方法

 遺跡を発掘されたままの状態で保存公開するために、ここでは特殊な保存処理剤が使われています。
 無色・無臭のこの保存処理剤は「ポリシロキサン」と呼ばれ、最先端の科学技術が応用されています。
 ポリシロキサンはケイ素化合物の一種で、化学反応によって水へ溶けにくくなり、また分子レベルで水の動きを抑え、カビなどの発生を防止する効果をもっています。  そして、分子構造式を変えることによって親水性にも疎水性にもできる性質を持っています。
 湿った土地条件にあるこの遺跡では、保存処理は分子構造式の異なる樹木用と土壌用の複数のポリシロキサンを用いて行っています。

概要 鉄骨・鉄筋コンクリート
地下1階・地上1階
敷地面積 14,263m2
建築面積 1,196m2
延床面積 2,743m2
施設内容 地下
常設展示室1(埋没林展示)
1階
常設展示室2、企画展示室、展望ラウンジ、研修室他

施設スペック

施設構造図 イメージ

施設構造

施設構造 イメージ
保存処理剤として用いた樹木用ポリシロキサン
ER-007分子構造

白色化について

 当館が公開している富沢遺跡では、開館まもない頃から土の表面に結晶物(硫酸カルシウム・硫酸マグネシウム)が発生し、現在、遺跡の広範囲が白色に見える状態になっています。この原因を探る分析調査は継続中ですが、これまで明らかになったことと、講じている対策をご紹介します。
 まずは、なぜこのような結晶化が起ったのか、現在考えられる原因を述べます。当館では、地下水が建物内部に侵入しないための建築土木工法がとられています。ところが、遺跡の地下水位を調べたところ、年間を通じて一定の範囲で変動していることがわかりました。また遺跡の土や地下水に含まれている成分を調べたところ、土にも地下水にも結晶の成分が存在し、深さによって量が異なることも判明しました。深くなるほど成分の量は少なく、また建物外部にも結晶の成分はごく少量しか確認されませんでした。これらのことから、建物外部から内部へと侵入する地下水がごく少量の結晶成分を運び、展示室内で水が蒸発することによって、成分が遺跡の表面に徐々に蓄積して結晶化が起ったと考えています。
 白色化の対策として、保存館では今までに展示室内の湿度や風量を調節し、地下水が蒸発しにくい環境を整えてきました。また、地下水を排水するためのポンプの稼働する回数を制御して、地下水を限界まで上昇させ、蒸発しにくい環境にしています。その効果もあり、結晶の析出量は減少してきています。しかし、析出自体は依然として続いています。さらに、地下水の上昇は遺構面の土壌の乾燥化を防ぐというメリットはありますが、その反面、水分を好む藻類が発生してきています。藻類自体は、遺跡を劣化させる直接の原因にはなりませんが、緑色が目立つ景観上の問題などもあり、現在新たな薬剤などを用いて、その対策を試みているところです。
 地球とつながったままの富沢遺跡は自然そのものといえます。自然を完全にコントロールすることは不可能ですが、皆様によりよい状態で遺跡をご覧いただくために、当館では今後も遺跡の状態を注意深く観察しながら、各種の分析調査や薬剤などを用いた処理作業を継続してまいります。

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